神無月。朝晩はめっきり寒くなり、金木犀の香りに秋の訪れを感じるこの頃。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回の話題は“フォルクスワーゲンのディーゼル規制不正プログラム問題”について。
様々な報道で周知のこととは思いますが、少しばかり私見を述べたいと思います。
(写真はネットから拝借しました)
この事件、フォルクスワーゲンが米国でのディーゼルエンジンを搭載する新車の形式認証検査において、
検査を巧妙に不正合格できるようにするソフトウエアを搭載し、検査時だけ排ガス浄化機能を
フル稼働させ、規制を逃れていたことが発覚し大騒ぎとなっており、自動車業界始まって以来の
大スキャンダルと言われています。
自動車業界に於いては過去にもいろいろな事件がありました。
●三菱のリコール(回収・無償修理)隠し
リコール隠し事件以降、三菱車の信用&売り上げは地に落ちました。
当時は三菱のエンブレムを外す人もいました。未だ信用&売上回復の道半ば。
●アメリカにおけるトヨタの欠陥疑惑&大規模リコール(主にフロアマット)
トヨタの自動車が暴走する?!プリウスも暴走!! といったセンセーショナルな報道でしたが、
プリウスの暴走に関しては詳細な調査の結果、76件中1件のみが原因不明で、多くは便乗事件であったようです。
米下院の公聴会に豊田章男社長が招致された様子が脳裏に焼き付いています。
豊田章男社長は「トヨタは絶対に失敗しない全能の存在だと思っていない」とも語っていました。
この事件をきっかけに、それまでのトヨタの一部にあった「当社の車の品質は完璧だ。事故は運転者の問題だろう」
という考えが正され、品質管理やリコール対応に磨きをかけ、以前にも増した信用を得ていると感じます。
結局、この事件はアメリカによるトヨタバッシングの面がありました。
アメリカの国営企業ともいえるGMの利益にかなうことでもあり、
中間選挙終了後には収束を迎えたことからも選挙を前にしたアピールだったと感じます。
ところが… 今回の事件は、上記の問題とは本質的に異なります。
世界で首位を争うメーカーが組織的&意識的に不正を行っていた…。
このことは、単なるリコール(回収・無償修理)やリコール隠し問題ではありません。
極めて悪質であり、ディーゼルエンジンに対するイメージを悪化させるばかりか、
自動車業界全体に対しての信用を失わせる極めて悪質な犯罪です。
フォルクスワーゲンは今回の問題をリコールとして処理しようと思っているようですが、
スイスでは新規登録停止となったり、米国では集団訴訟などに発展しています。
そもそもディーゼル車は窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)など有害物質を排気ガスに多く含むことが問題でした。
以前に、石原慎太郎東京都知事がPMの黒いススを振りながら、ディーゼル車NO!と言ったパフォーマンスを
覚えているでしょうか? 以来、日本ではディーゼル乗用車の不人気時代が続いてきました。
実は、その間、ヨーロッパではディーゼルエンジンが格段の進歩を遂げてきました。
燃費のよさや二酸化炭素(CO2)排出量が少ないという優れた環境性能や、大トルクによる運転のしやすさなど
ヨーロッパのニーズにマッチしていたことが理由です。
(以下、ちょっとマニアな話題ですので飛ばしてくださって結構です。)
実は… 最新のクリーンディーゼル、その要素技術には日本の企業が大きく関わっています。
コモンレール式電子制御燃料噴射システム、(DENSOが世界で初めて実用化)
ターボチャージャー(過給器,IHI・三菱重工など)、EGR(排気ガス再循環装置,東京ラジエターなど)
DPF触媒(粒子状物質除去装置,日本ガイシなど)、尿素SGR(選択還元触媒)など…
NOxと燃費、馬力といった性能は一方を立てると他方が立たず…と全てを満足させるのは至難の業。
これらの技術を組み合わせて最適な制御・燃焼を行うところがメーカーの腕の見せ所なのです。
日本でも、トラックを中心にディーゼルエンジンの改良が進んできましたが、
2011年にいすゞ自動車の一部ディーゼルトラックに今回のVWと同様の問題が見つかって
都の求めでプログラムやエンジン補機部品の交換といった対応を実施させたことがありました。
その事件の反省を生かして、日本メーカーはコンプライアンスを順守して進歩を続けているはず?!
また、近年日本国内ではハイブリッドなどのエコカーが注目されていますが、その過程で、
ヨーロッパ帰りのディーゼル車が第2のエコカーと言われ、急速に存在感を増しています。
中でもマツダは、コロンブスの卵的発想の低圧縮比ディーゼルを基とした技術の組み合わせにより
独創的&高性能なディーゼルエンジンを開発&販売しています。
以前、NHKの番組で特集されていましたが、素晴らしい技術だと思います。
ちなみに、今回の事件を受けて、マツダでは排気ガス計測の不正を一切行っていないことを明言しています。
「当社は、法令順守の精神に基づき、全てのガソリンおよびディーゼルエンジンを、各国の規制に厳格に適合させており、
違法なソフトウェア、ディフィートデバイス(無効化機能)※)は一切使用しておりません。
お客さまにおかれましては、今後も安心してお乗りください」
※)違法なソフトウェア、デフィートデバイス:何らかの方法で「排出ガス認証試験」であることを検知し、
認証試験時と通常走行時の排出ガス制御を切替え、違法に排出ガス規制に適合させるもので、
通常走行時には、排出ガス制御効果が減じられるデバイス
そして、フォルクスワーゲンと聞いてすぐに思い浮かぶのが、スズキとの提携解消 ですが…
フォルクスワーゲンがスズキを同等なパートナーとしてではなく、連結子会社として威圧的な態度で扱った
ことで関係が悪化したとも、スズキがヨーロッパで伊フィアットのディーゼルエンジンを採用したからとも、
いわれています。あくまで推測ですが、スズキが求める環境技術をフォルクスワーゲンが持っていなかったこと、
或いは不正の事実を知ったからなのかもしれません。
VWの株価暴落でスズキは大損をした訳ですが、フォルクスワーゲンと手を切ることが出来て良かったと思います。
世界1.2を争う老舗自動車メーカーがなぜこのような犯罪に手を染めたのか?!・・・
それは… ドイツ人の高いプライドが原因の一つだったのかもしれません。
ドイツ(ダイムラー・ベンツ)で発明された自動車が、アメリカ(フォードT型)で大量生産により一般人の手が届く
ようになり、日本メーカー(トヨタ・ニッサン・ホンダ他)が品質・コスト・環境面で進歩させ現在に至っています。
アメリカのGMでなく、日本のトヨタでなく、ドイツのフォルクスワーゲンが世界の覇者となるべきだと。
フォルクスワーゲンの14年の世界販売台数は1021万台で、この10年間で2倍近くに増えてきました。
15年上半期の実績ではトヨタ自動車を抜いて首位に立ち、いよいよ通年での首位を視野に捉えたところでした。
新車販売台数でトヨタ自動車と激しく競り合うドイツの名門企業フォルクスワーゲンですが、
「世界一」を前に焦ったのでしょうか。あるいは、「技術大国」としての驕りがあったのかもしれません。
これから先の、フォルクスワーゲンの…、いや、日本の自動車メーカーはもちろん、世界の自動車メーカーが
どのように信頼を回復し、技術を進化・深化させてゆくのか? 注意深く見守ってゆこうと思います。
P.S.
記事を書いていて浮かんできたのがカタログ燃費を実走行燃費の大きな違いについてです。
次回以降、この件について書いてみたいと思っています。